誰かに『聴いてもらう』ことの大切さ 

  楽器売り場でリサイタルはじめちゃう人

 

家に置いてある鍵盤を普通に弾くよりも、楽器売り場に展示されている鍵盤を弾くと、格別に楽しいのはなぜでしょうか…。

 

そう感じるのは、私だけではないはず。

 

お店に展示されている楽器は、あくまで『こんな弾き心地なんだ』とか、『こんな音色なんだ』ということを確認するために展示されているのであって、何も素人が頼まれてもいないのにリサイタルを開催するために設置してある訳ではないでしょう。

 

店先でリサイタルしちゃう人がハタ迷惑なのか、それとも5〜10分程度ならどうぞどうぞ、というムードなのか。このあたりは実際にお店の方に聞いてみたいものです。お店やその時の状況によりけりかもしれません。

 

家電量販店の電子ピアノしかり、楽器店の珍しいキーボードしかり。

ヤマハのお教室に併設されているピアノ売り場なんかでは、小さな生徒さんたちが今習っている曲をガシガシ弾きかじって帰って行ったりする光景をよく目にしました。懐かしい。

 

なぜ、楽器売り場の試奏は、いつもの練習よりも魅力的な時間になるのでしょうか。

 

それはきっと、そこに必ず誰かの耳があるからだと思います。

 

『聴いて』とこちらからお願いせずとも、楽器売り場にはたくさんの耳があります。しかも、楽器売り場に立ち寄るわけですから、多かれ少なかれ音楽に興味のある耳です。

 

しかも、今日通りすがったら、もう2度と再開することはないであろう耳。

 

そんな不特定多数の、一期一会の耳で溢れた楽器売り場で、『誰かが聴いているかもしれない』というドキドキが生まれるというわけです。

 

これは、自宅や練習室、レッスンや発表会では決して味わうことのない、特殊なドキドキです。

 

そして、楽器売り場での試奏は、基本的に誰に対してもオープンです。

 

家に楽器がない人も、音楽教室に通っているわけではない人でも、老若男女問わず試奏することができます。

 

誰にでも、ちょっとだけなら、リサイタルをはじめちゃうことが可能なのです。

 

  誰だってつまりは聴いてもらいたい

 

『誰にも聴いてもらいたくないけど、楽器を始めました。』という人はごくごく少ないはず。

 

楽器と向き合うのであれば、やっぱり目的の一つとして、『誰かに聴いてもらう』というシーンはあって然るべきものです。

 

一人で黙々と楽器を鳴らしているのも幸せな時間だとは思いますが、発表する場があれば、それはもっと刺激的な時間になります。

 

私はいつも新曲が出来上がると、真っ先に旦那さんに聴いてもらいます。

 

気分はもう、幼稚園で作った工作を親に自慢したくてしょうがない子供のごとく、そわそわしています。

 

反応がイマイチだと、『面白くない!』と怒りだし、反応が良いとご機嫌になる始末です

 

この新曲を初めて聴いてもらう瞬間というのが、私はたまらなく好きなのです。

 

これも、自分以外の耳があってこそ。この瞬間無くして、曲をあれこれ書くエネルギーは、なかなか得られません。(私には無理です!)

 

『誰かに聴いてもらえる環境』というのは、音楽をやっていく上で、ものすごくエネルギーを与えてくれているに違いありません。

 

  子供の頃の発表会

 

なんだかんだで小さい頃にヤマハを続けてこられたのは、年に何回も発表会があったからかなあ、と思います。

 

発表会に向けて、1つの曲を一生懸命練習して、本番前の緊張から本番、本番後の一気に全てから解放されるあの感覚。一度覚えてしまったら、もう離れられません。

 

みんなで言うところの『テストで良い点とったらご褒美』が、私は『本番で良い演奏できたらご褒美(だいたい回転寿司)』でした。

 

なので、本番の後のご馳走といったら、それはもう格別に幸せな気分でした。(そしてだいたい発表会は日曜日なので、次の日の月曜日はいつも学校を休んでのんびりしていました。)

 

なぜ、本番があると、一生懸命練習しなきゃ、と思うのか。

 

当然、大勢の前で失敗してしまう恐怖がまず頭に浮かびます。それは何としても避けなくてはならない。そして、失敗することを逃れ、なおかつさらにプラス。良い演奏をして褒められたいという欲がみるみる出てきます。

 

発表会を成功させるために、たくさん練習をする

発表会が無事終わって味をしめる

ちゃんと練習をするので、なんだかんだ楽器が上達している

 

という構図が出来上がります。(この『成功体験』を着実に積み重ねる為に、ヤマハの発表会はとにかく簡単な曲からスタートする方針なのかもしれません。)

 

それもこれも、誰かが一生懸命聴いてくれる場が設けられていたからこその緊張であり、開放感なのです。

 

いつものレッスン室や家ではなく、大きなホールでわざわざ大人数の前で演奏する。場所の効果ともあいまって、発表会は大きく着実に成長できる、素晴らしい機会です。

 

  音大時代の『試演会』

 

前期と後期、学期末にはもちろん実技の試験(楽器の演奏の良し悪しで点数をつける試験)がありました。

 

どの楽器の人たちも、講師陣(科によっては生徒も)の前で曲を演奏して、評価をつけられる方式です。これも一種の発表会ですね。

 

その実技試験の本番前に、よく仲間同士で『試演会』なるものをやっていました。

 

なんのことはない、狭い練習室にその場に居合わせた3人、5人くらいが入り、順番に試験で弾く曲を演奏するだけの会です。2人などの少人数でも成り立ちますが、やはり4〜5人でやったほうが緊張感もあり、効果的だったように思います。

 

一人でガツガツやる練習ももちろん必要ですが、この適度な緊張感の中で良いパフォーマンスをする練習というのも、とても大切です。

 

もちろん、演奏が終わると、良かったところや、改善したほうが良いところをそれぞれ意見します。

 

褒められると自信がついて、ステージへの度胸に繋がります。自分以外の耳で聴いた際の新鮮なアドバイスは、とても為になります。

 

そんな試演会はまさに、『誰かに聴いてもらうために、誰かに聴いてもらう』という場でした。今思い返しても、宝物のような時間です。

 

  家族に聴いてもらおう

 

大きなホールを貸切にしなくたって、音楽をわざわざ学んでいなくたって、誰でも発表会は開催できます。

 

同居人に少し付き合って貰えば良いのです。

 

親、子供、兄弟。犬でも猫でも。飼い犬や飼い猫が、自分の演奏を神妙な面持ちで聴いてくれたのなら、ある意味人間に褒められるより嬉しいかもしれませんね。

 

ちょっとファンタジーですが、セロ弾きのゴーシュも、動物たちに演奏を聴いてもらっていましたね。彼はいささか荒れ気味でしたが…。

 

『ちょっと聴いてよ』と気軽に声をかけるもよし。

 

もう少し緊張感が欲しいのなら、プログラムを手作りしましょう。曲目を考え、演奏順や演奏時間を考慮し、適度な時間のコンサートを家で開催しましょう。

 

そして、家族にプログラムを配り、あらたまった観客席を用意して座ってもらいます。電気をいつもより暗くしても、雰囲気が出て良いかもしれません。

 

このようにして、演奏会は誰でも開くことができます。ましてや、YouTubeのご時世ですから、自信のある人は、どんどん不特定多数の人に聴いて貰うことができます。

 

『誰かに聴いてもらう』という行為による利益は計り知れません。発表の機会を作り、実行するだけで、楽器が着実に上手くなっていきます。

 

一つずつ、小さくても、成功させることが大切です。

 

ぜひ、お家で演奏会を開いてみてください!

 

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