『ドッペルドミナント』という単語を初めて耳にしたのは、確か小学校3年生あたりのことでした。
思えばこの頃から音楽教室で習う音楽理論のあれこれがよくわからないまま、レッスンを受けていたような気がします。
人からの言葉・説明だけで、特定の概念を理解するというのは、本当に難しいことです。
概念を理解し終えた今の時点で、ドッペルドミナントの説明を聞いても、『なんだ、そんなに簡単なことでつまづいていたのか』と思えますが、わからない渦中にいるときの苦しみといったら、それはもう真っ暗闇の中に一人で取り残されているような心細さに等しいです。
今回は、そんな自分のトラウマ的存在でもある、『ドッペルドミナント』を攻略します。
解説に入る前に、少し前置きをします。
ローマ数字であらわす場合は、和音記号としての表記。『Ⅰ度(の和音)』『Ⅴ度(の和音)』
アラビア数字であらわす場合は、音程の度数として表記します。『2度上(長2度上の音程)』『5度上(完全5度上の音程)』
『ドッペルドミナント』とは
なんてことはありません。つまり『Ⅴ度のⅤ度』のことを指しています。話し言葉的にすると、『ゴドゴド』と言ったりします。
わかりやすいハ長調でまずは考えてみましょう。
1:ハ長調の主たる和音、すなわちⅠ度にあたる、ドミソの位置に手を置いてみてください。
2:そこから(完全)5度、指の形を『ドミソ』で固定したまま、上にあげましょう。これが、ハ長調でのⅤ度の和音、『ソシレ』になります。
3:次です。そのソシレから、さらに(完全)5度、上にあげましょう。もちろん、指の形は固定したままです。
そうすると、『レファラ』にたどり着きますね。
4:理論的な説明は後回しにして、ともかくこのレファラをメジャーコード(長調)にした、『レ・ファ♯・ラ』が、ハ長調での『ドッペルドミナント』ということになります。
ひとまず裏ワザを
この流れでドッペルドミナントを探すとなると、5度上げる作業を2回もやらなくてはなりません。
そんなまわりくどいことをせずとも、お手軽にその調のドッペルドミナントを探し当てる方法があります。
それは、『Ⅱ度をメジャーにして弾く』というものです。
これなら、何調にいたとしても、一発で・瞬時にドッペルドミナントを抑えることができます。
1こ上(長2度上)の和音を経由して、Ⅴ度に行けばよいだけになるので、グンと手間がはぶけます。
例えば…
ト長調なら→『ソシレ(Ⅰ度)』→『ラドミ(Ⅱ度)』→『ラド♯ミ(Ⅴ度Ⅴ度)』
へ長調なら→『ファラド(Ⅰ度)』→『ソシ♭レ(Ⅱ度)』→『ソシレ(Ⅴ度Ⅴ度)』
短調の場合でも同じです。
イ短調なら→『ラドミ(Ⅰ度)』→『シレファ(Ⅱ度)』→『シレ♯ファ♯(Ⅴ度Ⅴ度)』
ニ短調なら→『レファラ(Ⅰ度)』→『ミソシ♭(Ⅱ度)』→『ミソ♯シ(Ⅴ度Ⅴ度)』
ドッペルドミナントの役割
そもそもなぜ、『ゴドゴド』を経由してからⅤ度の和音を抑えることを強要(といっても過言ではないほどに、強制)されるのでしょうか。
それには、ドッペルドミナントにはこんな役割があるからです。
『より!一層!Ⅰ度(正しいポジション)に戻りたくさせる』
この状況を、自分なりに表現してみます。
人間、重力のある地球で暮らしていますから、まっすぐ立った位置が、ホームポジション、もとい正しい姿勢と言えますよね。
このまっすぐ立っている、気持ちのよい姿勢が、Ⅰ度が鳴っているときの状態です。
なんのストレスもなく、なんならこの状態で少し放って置かれても、なんともありません。
では、逆立ちをしてみましょう。頭に血がのぼって、気が気ではなくなってきます。早くもとの姿勢に戻して欲しい!このままずっと逆立ちなんてしていられない!というところでしょうか。
この逆立ちをしいられているのが、Ⅴ度が鳴っているときの状態です。
この、『楽な姿勢』→逆立ち→『戻りたい!』→まっすぐ→『戻った。(ああよかった)』→逆立ち→『戻りたい!(助けて)』→まっすぐ→『戻った。(ひと安心)』という繰り返しこそが、
『Ⅰ度』→『Ⅴ度』→『Ⅰ度』→『Ⅴ度』→『Ⅰ度』であり、
『逆立ちをしたなら、元に戻りたくなる。』というはたらきを利用して、曲の中で緩急をつけているのです。
この『戻りたい!』という気持ちをより一層かき立てる役割を担っているのが、まさに『ドッペルドミナント』です。
『逆立ちに加え、宙吊りもされてしまっている状態』といったところでしょうか。
ただでさえ逆立ちをして重力に逆らっているのに、地面から急に2~3m上へと吊り上げられたら、たまったものではありません。
『はやくもとに(Ⅰ度に)戻して!!!!!!』
という心の叫びを引き出すのが、ドッペルドミナントの役割です。
ちょっと踏み込んだ話
ここは分かっていても分かっていなくても、どちらでもよいお話です。でも分かっていた方が、少しだけ、これから役に立つかもしれません。
先ほどの、ハ長調を使った解説の中で、『レファラ』を『レファ♯ラ』に変換する、という一手間がありました。
なぜ、ここに♯がつくのかを、簡単に説明します。
実は、『レファラ』はハ長調の領土。『レファ♯ラ』になると、ト長調の領土に足を踏み入れていることになります。
おわかりの通り、ハ長調の音階に、『ファ』はあっても、『ファ♯』はありません。ハ長調はすべての音が、ナチュラル(白い鍵盤)だけで構成されているからです。
そうです。ドッペルドミナントとは、実は国(調)をまたいで貸し借りされる和音だったのです。
とはいえ『5度上の調』と言えば、国境を隔ててはいるものの、お隣さんも同然です。今いる国から1番近い国かもしれません。
ト長調の国では、もちろんファには♯がつくのが当たり前です。
『ゴドゴド』というのを省略せずに表現すると、『完全5度上の調へいき、その調のⅤ度を借りてくる』となります。
そして、その借り物である『ゴドゴド』には、Ⅰ度へ戻りたくさせる効果が倍増するという機能がついている、というわけです。
まとめ
鍵盤を弾く際、楽にドッペルドミナントを探すには、『長2度上のメジャーの和音』という具合に。
ドッペルドミナントがなぜ好まれるかというと、『より一層Ⅰ度に戻りたい』と思わせる機能があるから。
これが分かってしまえば、お教室で出される和音づけの宿題も、怖いもの無しです。
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ドッペルドミナントの説明とても分かりやすかったです。嬉しくなりました。質問なんですが「パラレルドミナント」とはどういう事なんでしょうか
山内照代様
嬉しくなっていただき、私も大変嬉しいです!ありがとうございます!
「パラレルドミナント」は初耳ですので、今度調べてみます!
今後ともけんばんとくらすをよろしくお願いします! kaso