はじめに
あなたがこれから音楽を始めようとしているのなら、それはとても尊いことで、あなたの人生にとって最高の選択です。ですが、ひとくちに音楽といっても、様々な関わり方があります。
歌うもよし、楽器を弾くもよし、作曲に没頭するもよし…。ですが、ここではあえて、鍵盤楽器をはじめることをおすすめします。
その理由を、これからいくつか紹介していきます。
1 のちにどんな楽器をやるにしても役に立つ
鍵盤楽器の特徴の一つとして、メロディー・和音(コード)・ベース・リズム…全ての音楽の要素を、一人で表現することができるという点が挙げられます。
例えば、クラリネットやトランペットのような管楽器は、複数人で音を重ね合わせて和音を生むことはありますが、一人では単音しか出すことができないので、よほどオーケストラ団員やビッグバンドの一員でもない限り、音楽を一つの線、メロディー的にとらえる機会がとても多くなります。
ピアノをはじめとする鍵盤楽器では、これもアンサンブルする相手に左右される一面はあるものの、基本的な演奏スタイルは、右手でメロディー、左手でベースと和音をやるものです。もちろんリズムもつかさどることができます。
これはつまり、音楽を構成するすべてのパーツに触れ、学ぶことができるということです。あるいは、そんなことを考えるに至る以前に、音楽の要素とは何かも知らぬ間に、後から振り返ってみたら、確かに音楽の要素たるものが勉強できている、身についている…。音楽を思考的に理解するより早く、感覚的にその音楽の本質をつかむことができるのが、鍵盤楽器という手段です。
では、メロディー・和音・ベース・リズムといった各要素が身についていると、どんな面で役に立つのでしょうか。
それは、他のどんな楽器をやっても、または作曲・編曲、音楽に関わるすべてにおいて生かすことができる最大の強みになる、といえます。
後から詳しく説明しますが、エレクトーンなどの電子オルガンは、その恩恵を最大限に受けられる楽器です。
電子オルガンは鍵盤が上鍵盤、下鍵盤、足鍵盤の三段に分かれています。それぞれを右手、左手、(左)足で演奏し、それがそのままメロディー、和音、ベースの三つの役割ごとに分かれているので、無意識のうちに、音楽への理解が深まる、特別な鍵盤楽器です。
2 いろいろなタイプの楽器があるので選べる
鍵盤楽器にはアコースティックから電子まで、多種多様なかたちがあります。ここではあらためて代表的なものを、目的別におすすめしていきます。
【電子オルガン】音楽の基礎を学ぶならこれしかない!
〈性能・性質〉
最初の楽器なら断然ピアノじゃないの?と思われる方が多いと思いますが、実はこの電子オルガンという楽器は、学ぶための楽器として特に優れた性能・性質を持っています。
先ほどにもお伝えした通り、この楽器には3段の鍵盤があります。なので、音楽の構成をパーツ別に汲み取ったり、それをより深く理解した上で、表現したりすることができます。
これは、のちに自分で作曲・編曲をしたいと思った際に、非常に有用な経験になります。誰かが作った曲をたくさん弾いていたとすれば、知らず知らずのうちにその音楽がどのような要素で構成されているかが感覚的に理解できているので、それを一から自分で構築していくときに、とっても役に立ちます。
電子オルガンはその名の通り、電子楽器です。多彩なサンプリング音源(実際の楽器から録音してプログラムされた、ボタン一つで呼び出せるリアルな音源)を搭載しています。なので、ある程度操作に慣れてくると、たった一人、一台の電子オルガンで、100人のオーケストラがそこで演奏しているかのような迫力あるサウンドを簡単に生み出せます。
つまり、普段耳にするような楽器の音なら、ほとんど出すことができるのです。そうすると、実際本物の楽器ではどんな演奏になるのか、どうやって本物に近い音が出せるのか、という視点から、とても自然な流れで様々な楽器に興味を持ち、学ぶことにつながります。
本物に近づける、という楽しみ方もありますが、もちろん電子オルガンの中で本物を生み出すことも可能です。
生の楽器のサンプリング音源だけでなく、シンセサイザー系の音も一通り揃っていたり、エフェクト(音色に追加効果を与える機能)も簡単な操作でいろいろ試すことができるので、オリジナリティ溢れるサウンドづくりにも発展していくことができます。
(電子オルガンの魅力はまだまだたくさんあるので、また別の記事で詳しく紹介していきたいと思います。)
〈値段〉
しかし一方で、やはり大型の楽器なので価格面では、おおごとになってしまいます。最新のものは約60~100万円近くします。手頃に電子オルガンを楽しみたい方に向けた小型のものは約20万円で購入することができます。
〈設置〉
機種にもよりますが、楽器の重量が100kg近くあるので、古いアパートなどでは床が抜ける心配もあります。
また、足鍵盤があるので、振動が生じる関係上、2階に設置してしまうと、階下の部屋に響いてしまう場合があります。下にマットを敷くなどして、防音・防振に気をつける必要があります。
付属のスピーカーからの出力がメインですが、もちろんヘッドフォンの使用もできます。なので、重量の問題、足鍵盤の振動の問題がクリアできれば、このサイズの楽器としては、案外置き場所の縛りは少ないです。
【メリット】
・3段の鍵盤で多彩な表現ができる
・電子楽器だからいろんな音色が楽しめる
・音楽の学習に最適
【デメリット】
・大きな楽器なので設置が大変
・価格が高め
【ピアノ】生の楽器で音を”鳴らす”感覚をつかむ
〈性能・性質〉
『楽器の王様』と称されるだけあって、やはりピアノは外せません。ピアノのすごいところは、なんといっても音がたつということです。
音がたつ、というのも少し抽象的な表現ですが、埋もれない音、といった方がわかりやすいかもしれません。ほんとうに上手な人が弾くピアノの音色は、とてもキラキラ輝いていて、一粒ひとつぶが際立って、それはもう素晴らしいものです。ダイナミクス(音の強弱の幅)も、アコースティック楽器の中では随一です。
それもそのはず。ピアノというのはピアノフォルテを省略した呼び方です。これは、音楽記号で小さな音での演奏を指示する『p (ピアノ)』と、大きな音での演奏を指示する『f (フォルテ)』を組み合わせた名前です。
それほど、強弱の幅が広くつけられる、ということは、音楽にとって大きな意味をもたらすものです。ただやみくもに鍵盤を叩いているだけでは、ピアノは鳴ってはくれません。自分の身体と、そして音楽と、面と向かって真摯に対話をしながら、自分だけの音色を作りあげていきます。これはアコースティック楽器ならではの大変な部分でもあり、一番の楽しみでもあります。
ピアノは木でできている生の楽器ですから、こうして楽器を鳴らす感覚というものを身につけることができます。これは、電子楽器では補えない部分です。
また、音楽の先人たちが遺した作品の数々は、当然ながらピアノの原型である、生の楽器で作曲されたものです。彼らと時代を超えて、楽譜という情報と、ピアノという楽器でつながることができるのも、この楽器の魅力です。
〈値段〉
やはりピアノも大型の楽器ということに加えて、生の楽器なので、価格面での壁は大きいです。
アップライトピアノという、いわゆる縦型のコンパクトなタイプだと、幅はありますが約40万円~80万円ほどです。部屋を埋め尽くすほどのグランドピアノは約100万円から。
そして、ピアノには調律という年一回のランニングコストがかかります。頼むところにもよりますが、プロの調律師の方に自宅まで出張していただいてお願いするので、一回2万円ほどかかります。これをしないと、湿気や演奏の頻度にもよりますが、音がだんだん狂ってきてしまうのです。この少し狂った音も聴きようによっては味があって面白いのですが、やはりちゃんとピアノを鳴らそうと思いながら練習をしないと、あまりピアノをやっている意味がなくなってしまうので、年に一度の調律は必須です。
〈設置〉
中には生楽器であるにもかかわらず、サイレント機能がついていて、ヘッドフォン演奏に対応したものもあります。
大きさや重量は見ての通り、かなりのものなので、電子オルガン同様、住居の構造をしっかり考えた上で、置き場所を決めなくてはなりません。
【メリット】
・生楽器ならではの美しい響きが楽しめる
・楽器を演奏する上での身体の使い方が学べる
・時代を超えて、より偉人たちとつながることができる
【デメリット】
・サイズ・重量・音の問題
・本体価格・調律、と値が張る
【電子ピアノ】とっつきやすさNo.1
〈性能・性質〉
上記二種の楽器ではあまりに大掛かりで、気楽にはじめられないという方は少なくないことでしょう。そのことを裏付けるかのような事実として、ショッピングモールなどに入っている楽器店で販売されている鍵盤楽器といえば、そのほとんどがこの電子ピアノであるということがあります。
ですがやはり、この電子ピアノはあくまで簡易的なものです。次のステップへつなげるための足がかり的な楽器、という立ち位置です。『電子ピアノでここまでがんばれたら、アップライトピアノを買おう。』というふうに、いきなり大きくて高価なものを買うにはリスキーだと感じる方にだけ、おすすめします。簡易的な楽器なので、音楽へ身を投じて表現を磨く、という目的には、不向きです。
〈値段〉
価格は一番お手頃で、少し鍵盤にさわってみたいな、という方には一番とっつきやすい楽器です。
お手軽なタイプだと1万円以下のものからありますし、どっしりした電子ピアノなら3万円ほどの価格帯からあるので、欲しい性能、機能、メーカー、などによって幅広く選択することができます。
〈設置〉
この楽器は、さほど大型でもなければ、音が響いてしまったり、振動するといったこともほとんどありません。置き場所も、それほど困りません。
【メリット】
・ 価格が圧倒的にお手頃 機動力があり、設置にも困らない
【デメリット】
・ 音楽を深く表現するには不向き
【シンセサイザー】唯一無二のプログラムで芸術を生む
〈性能・性質〉
シンセサイザーにはデジタルとアナログの二種類があったり、鍵盤のついていないものまであったりと様々な形態がありますが、共通して言えるのはやはり音づくりに特化している、という部分ではないでしょうか。
シンセサイザーはいわば電子の生楽器です。
アナログの回路を持つシンセサイザーでは、音の波形を何もないところから、震わせたり、タイミングをずらしたり、重ね合わせたりして、つくりあげていきます。それゆえ、ほんの少しのさじ加減の連続で、理想の音色に近づけていく難しさと楽しさがあります。
もちろんすでにプロがつくった音色が入っている場合がほとんどで、その音色も、生っぽさがあり、しっかりとした太さと力強さがあります。
デジタルのシンセサイザーには、電子オルガンと同じように、ボタン一つで呼び出せるリアルな楽器の音源がたくさんセットされているので、いきなり本格的な音のプログラミングができなくても、気軽に多彩な音色を使って表現することができます。
本格的なシンセサイザーの強みは、その音の太さです。太さ、というのはただ音量が大きいとか、そういうことではなくて、まるで人の声のように感情やニュアンスが伝わってくるのが魅力です。
〈値段〉
そんな音づくりに特化したシンセサイザーですが、求める機能や性能によって値段も様々です。5万円までのものもあれば、上は10万円単位で値段が上がっていきます。
〈設置〉
設置に関しては、さほど困りません。機動力もあります。
【メリット】
・とにかく音づくりに特化している
・リード楽器としても最適
【デメリット】
・機能・性能にとても幅があるので選ぶのが大変
3 どんな楽器とのアンサンブルにも合う
鍵盤楽器のいいところは、他にもあります。出すことのできる音の高さ、すなわち音域にほぼ制限がありません。音域に制限がないと、どんな楽器が相手であっても、それが何人でも、フレキシブルな対応が可能です。
音域だけでなく、メロディー・和音・ベース・リズム、すべての要素を有することのできる楽器ですから、とにかく融通がききます。どんな役割を持つこともできるのです。なので、相手がどんな大編成のオーケストラであっても、対等に渡り合うことができます。素朴なソロ楽器とのデュオでも雰囲気を出せます。どんなに尖った編成でも、人数でも、輝くことができるのが、鍵盤楽器です。
音楽の道を志していくなかで、誰かと一緒に演奏する喜びというのは何物にも代えがたい、宝物のような体験です。そんな、いつか出会うかもしれない『誰か』がどんな楽器をやっていても、どんな音楽であっても、素敵な音楽が生み出せる。それが鍵盤楽器のいいところです。
まとめ
楽器の演奏、という表現はもちろんのこと。作曲、つまりその手で0から音楽を生み出し、表現するときにも、鍵盤楽器はあなたの翼になってくれます。
そんな鍵盤楽器と仲良くなって、音楽を自由に表現する喜びを、ぜひ感じてみてください。
言葉で思うより速く、深く…。音楽・鍵盤は、とっても自由です。ですが、自由になるためには、まず、楽器と仲良くなる必要があります。
無理せず・楽しく・少しずつ、鍵盤楽器と仲良くなって、音楽を表現しましょう。
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