音楽をやる人も、やらない人も、みんなが一度は気になる『絶対音感』。
これはそんなに特別なスキルというわけではありません。
血の滲むような努力が必要なわけでもないし、奇跡の才能を持ってして生まれないと得られないようなものでもないのです。
そして、この絶対音感には良い面もあれば、悪い面もあります。
便利だったり、不便だったりする場面があるということです。
私は、4歳から音楽教室に通い、電子オルガンをなんだかんだ続け、音楽大学の短大に入学し、その後も音楽でもって生活を営んでいます。
そんな私は、『幼少期から絶対音感の訓練を受けた子は、その後音楽の世界で実際にどうなっていくのか』という実験の、一つのサンプルであります。
その実験体である私自身が感じてきた経験、つまり主観を多く含んだ内容になります。
一般的にどうなのかということよりも、自身の体験にもとづいた考えを重視してお話しますので、ご了承ください。
絶対音感とは
(ちょっとややこしいのが、この言葉の定義が、もはや人それぞれの域になってしまっているということです。)
私の感覚・経験では、
『基準の音をあらかじめ聞かずとも、メロディー・コードを音名でとらえることができる』
というのが、絶対音感です。
判断のポイントは2つ。『① 基準の音』と『② メロディー・コード』です。
①基準の音
聴音をおこなうとき、メロディーを弾き始める前に、よく基準の音(ラとかド)を鳴らします。
(聴音とは、先生がピアノで弾いたメロディーや和音を、譜面に書き取ったりして音名で答える科目のことです。)
その1音で、頭の中をチューニングし、メロディーの音名を探っていくのですが…。
いわゆる絶対音感の人たちには、このチューニングの作業が必要ありません。
自分の中に、常にチューニングが完成しているからです。
いきなりメロディーを弾き始めても、その正確な音名を答えることができます。
②メロディー・コード
楽器や人の声で演奏されるもの。調律と呼ばれる、ある程度決められたルールの中で動く音のつらなり。
これがいわゆるメロディーです。
そして、それが団子のように、ミルフィーユのように重なったものがコード。
人の話し声や工事現場の音、手をパン!と打ち鳴らしたもの。
これらはメロディーやコードではありません。
後者のものも、音名で聞き分けられないと絶対音感ではない!と主張する人たちもいますが、私はそうは思いません。
たしかに、これらの雑音に近い音たちも、厳密に突き詰めていけばどこかしらの音階に配属されるのでしょう。
ですが、そういった音を突き詰める必要が出てくる場面というものは、あんまりありません。
厳密にスキルの性能がどうこうということを気にしてがんじがらめになるより、こちらの解釈の方が意思疎通の上で便利だな、ということから、私の絶対音感の定義はこんな感じになりました。
幼少期から小学校〜あやうかった絶対音感・持っててよかった絶対音感〜
音楽教室では、簡単なメロディー(童謡のような歌いやすいメロディー)を、ひたすら音名で歌います。
一昔前ですが、ヤマハのCMで『ソレミファソーラファミ・レ・ド〜』と子供たちが先生と一緒に歌うものがありましたね。まさにあんな感じのレッスン風景なんです。
レッスンでは他にも、普通に歌詞で歌を歌いましたし、片手でメロディーを弾くもの、両手でメロディーを弾くもの、リズムの練習、それからクラシックなんかの曲を鑑賞するような時間もありました。
その中で、かなり直接的に絶対音感を育てることをめがけていたのが、この音名でメロディーを歌うというものです。
そんなお教室に通うこと2年。だんだんと絶対音感?が芽生え始めます。
ピアノで弾いたメロディーや和音を、答えられるようになっていきました。
ただ、私はこの頃、移調奏がマイブームだったせいで、あやうく絶対音感がつかなくなるところでした。
しっかり自分の中でのチューニングが完成するよりも前に、移調の頭を作ってしまうと、混乱するみたいです。
小学校では、ピアノでちょこっとテレビで流れている音楽やゲームの音楽なんかを弾くと、みんなが喜んでくれたのを覚えています。
同じ学年には、ヤマハのような音楽教室ではなく、個人のピアノの先生に習っているような子が、ちらほらいました。
そういう子たちは、今習っている曲をパラパラ弾いたりして、『(ピアノが弾けて)すごいね!』となります。
一方で、音感を鍛えられているヤマハの子は、簡単な耳コピーがすでにできます。
なので、ピアノの先生に習うクラシックではなく、普段耳にするアニソンやゲーム内の曲を、ぱっと演奏することができます。
なので、クラシックの曲よりも、もちろん周りの反応が良くなります。反応がいいと、嬉しくなってもっと弾きたくなってしまいます。
このあたりは、絶対音感の強みでしょうか。
中学校〜融通がきかない絶対音感〜
中学に入学すると、『鍵盤以外の楽器もできたほうが後々役立つだろう』という考えから、吹奏楽部に入部しました。
…結果、5月で退部しました。(笑)
退部した理由としましては、エレクトーン関係(レッスン、コンクール、発表会、作曲もろもろ)が忙しいので両立がキツいというのがメインでしたが、もう一つの大きな理由が、絶対音感でした。
私が担当になった楽器はクラリネット。クラリネットは移調楽器と言って、楽譜に書いてある音階と、実際に吹いて出てくる音階が異なります。
これは、ただのイジワルでそうなっているわけではありません。
五線譜の中に、一番読みやすいようにおさめる(ちょっとスマートじゃないけど)合理的なやり方なのです。
クラリネットの他には、ホルン、トランペット、なども移調楽器です。
譜読みや練習を個人で勝手にやらせてくれたのなら問題はなかったのですが、そういうわけにはいかず、先輩や同級生と一緒にやらなければなりませんでした。
そして、その譜読みのやり方がとても自分にはキツいものでした。
譜面に書いてある音名を、その音名のまま、違う音で読むことを強制されました。幼少期に散々すり込まれた訓練とは、真逆のことです。
(図)
私の頭がもう少し柔らかければ、対応することもできたのでしょうが、未熟者の自分には到底なせる芸当ではありません。
もう気持ち悪くてしょうがなくて、頭がぐちゃぐちゃ。とにかく『これは間違い』という信号が体から出続けているにもかかわらず、それを実行しなければいけないという困難。
たったの1か月で音をあげてしまったのは、いうまでもありません。
高校生〜遊び弾きが飽きない絶対音感〜
私の通っていた高校は、とくに音楽専門の高校というわけではなかったのですが、『普通科・音楽コース』のような区分けがされていました。
1年生の時間割は特に変わったところはないのですが、2年生になると、なんと数学の授業を一切受けなくてよくなりました。なので、私は数I・Aまでしかやりませんでした。しかも、この時点で音楽が週6時間。
3年生になると、なんと音楽は怒涛の週8時間。
この週8時間の中で、半分はソルフェージュ、もう半分は器楽というふうに割り当てられていました。
ソルフェージュは、聴音であったり、視唱であったり、楽典の勉強をしました。音大の入試に向けた準備ですね。
この器楽ほうの時間じゅう、私はピアノで狂ったように遊び弾きばかりしていました。
というのも、ずっと電子オルガン一本で(と言えば聞こえは良いですが、実際には根性が足りなくて)他の楽器、ピアノすらちゃんとやってこなかったので、『自分の専門外の楽器でどうしろというのだ!』と困惑していました。
今思えばやれることは山ほどあるのですが、学生時代の自分はなんともはや融通はきかないし、頭が硬いです。
ピアノの初歩的な曲を練習するのにも嫌気がさし、たどり着いたのは遊び弾き。
頭に浮かんだ曲を次々に鍵盤にぶつけていきます。
前述のとおり、絶対音感は耳コピーにおいて非常に役に立ちます。
頭に鮮明に思い起こせる曲なら、ほぼ不自由なく鍵盤で弾くことができるからです。
そんなこんなで、ボカロ曲から歌謡曲から懐メロから小学校の校歌から童謡から何から何まで弾きまくりました。
この訓練は、自分にはとても効果があったようで、より耳コピーがスムーズにできるようになりましたし、なんだかんだストレス解消にもってこいの貴重な時間でもありました。
短大生〜やっぱり便利な絶対音感〜
というわけで、上記の紆余曲折を経て、音大とセットになっている短大…的な学校に入学しました。
もちろん短大なので課程は2年間ですが、普段の授業やレッスンは大学と一緒くただったので、皆さんに伝わりやすい言い方としては、『音大に2年間居た』という感覚なのでしょうか。
もちろん授業の9割が音楽の専門的な内容なので、絶対音感が役に立たないわけがありません。
かと言って、無双状態になるかと言えば、実はそうでもありません。
絶対音感が役に立つ『聴くこと』に関する能力に加え、もちろんのことながら、演奏技術・読譜力・知識経験・表現力など、ありとあらゆる能力が試されます。
絶対音感があれば無敵というわけにはいかないのです。
しかしまあ、持ってて損はないのがこの絶対音感。
楽譜のない曲をやるときは、すべてYouTubeやCD音源だのみの耳コピーなのに変わりはありませんから。
もちろん、音楽の学校なので、そういう機会はグンと増えるわけです。
大学に入ったばかりの頃の何かしらの授業で、絶対音感の話題があがりました。
『この中で絶対音感の人は?』
と、手を挙げさせられました。
もちろん音大なのだから、手がわっとあがるものかと思いきや、大勢いる中で手をあげた人はほとんどいませんでした。
その次に先生は、手をパン!とうち鳴らし、
『絶対音感の人には、これがどの音名なのかがわかる』
と言いました。
自分の中での絶対音感の定義は先のとおり、『基準の音をあらかじめ聞かずとも、メロディー・コードを音名でとらえることができる』というもので、この考えはこの頃から変わっていません。
なので、この場面に遭遇しても、『はて?』という感じでした。
日本語のこまかいニュアンスなどでもそうですが、何が正しくて何が間違っているのか、という判断はとても難しいです。音楽に長く身を置く人の間でも、考えや感じ方は様々ですから。
補足
絶対音感は特に優れた能力というわけではない
音楽のスキルは、多種多様です。
それを多く持っていればそれで良いかと言えば、そういうわけではないし、そのうち1つのスキルがずば抜けていれば必ずしも優秀かと言えば、それも違います。
音大に入学するという、特殊なシチュエーションですら、それ1つで無双できるスキルなんてないのです。
絶対音感という言葉が、なまじ有名なばっかりに、よく話題にあがるし、音楽をやらない人も気を遣ってこの話題をこちらに振ってくることが、ままあります。
しかし、同じ絶対音感というスキルを持つ人の中にも、もちろん得意・不得意はあるわけです。
絶対音感だから音楽が上手、いい演奏をするというわけでは決してありません!
耳コピーと音感
耳コピーをするうえで、絶対音感が役に立ったと何度も述べてきましたが、実はこれ、『相対音感』でもなんら問題ありません。
相対音感とは、
『基準の音を聞いたうえで、メロディー・コードを音名でとらえることができる』
というスキルです。
チューニングのヒントさえあれば、音名を聞き取ることができるというものですね。
相対であれ絶対であれ、『音感』が備わっていれば、耳コピーは可能です。
ざっくり言ってしまえば、音の高い or 低い をその都度比べていけばいいわけですから。鍵盤などで総当たり戦を実行すれば、どんなに希薄な『音感』であっても、耳コピーはできます。
ただ、そのうえで相対音感か絶対音感があれば、よりスムーズな作業が可能となり、訓練すればほぼリアルタイムでの耳コピーが可能となっていく、という具合です。
おつかれさまでした
長い記事に最後までお付き合いくださり、感謝します。
私の結論としましては、
『絶対音感は持っていれば便利、相対音感でも可。』くらいなものです。
何度も言いますが、音楽のスキルは様々です!
絶対音感はそのほんの一部にすぎません。
自分の光る個性、能力を大切に伸ばしていけたら、きっと幸せに・末長く音楽と付き合っていけます。
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